素人が短編小説書いてみた 〜上〜
僕がいつものように通学路を歩いていると、前の方で鏡を片手にニヤニヤとしながら歩いている男がいた。
いや、男というのもおこがましい。あんな奴は不審者で十分だ。この不審者っ!
僕は危険を感じ、足早に不審者を追い抜いていく。
「ねぇ、そこの君ィ~」
後ろから明らかに「ボク、カッコイイです」とでも言いたげな声が聞こえてくる。
誰かが呼び止められたようだ。
ご愁傷様です、と僕は巻き込まれないように先を急ぐ。
「君だよ。そこのチェック柄のバックを背負っていて、緑色のシャツを着ている君だよ。君ィ~」
いちいち、言い回しが癇に障る奴だな。
……待てよ。今、コイツが言った「君」に見覚えがある。具体的に言うと今朝、鏡の中で見た。
ということは……僕じゃないかァァァ!!
ホントに勘弁してください見逃してください300円あげるから!!
………。
このままいても埒があかない。
意を決して振り向く。
「なにか?」
そう、問いかけつつ、相手を観察する。
そこにはブサイクでもなければカッコ良くもない、なんとも普通の顔のやつがウインクを決めていた。
なんだ。この勘違い野郎は。
初対面の奴に対してこんなにも殺意を抱いたのは初めてだ。
いや、まて、もしかしたら僕が落し物をして拾ってくれただけかもしれない。
「ボクと一緒に登校しないかい?今ならなんと!ボクとお喋り出来る特典付きだぜ」
…………。
なぜ神様はコイツと僕を引き合わしたのだろうか。
明日……いや、今日からピーマンしっかり食べるから無しになりませんかねぇ?
ならないかぁー、ならないよなぁー。
だったら……。
戦略的撤退!!
ダッシュで歩道橋を渡って行く。
しかし、およそ十秒後。
あっけなく追いつかれた。
日頃の運動不足がここにきて悔やまれる。
「そんな、ボクがカッコ良すぎるからって焦らなくても良いんだよ?」
もう、やだー!!僕、実家に帰るー!!実家に帰って農家継ぐー!!!
「子猫ちゃんは○○学園大学の学生だろ?」
誰が子猫ちゃんだ。この勘違いクズ野郎。
「いえ。違います」
僕は怒りを抑え、平静を装いながらそう答えた。勿論、嘘だ。
「んー、そうかぁ~。じゃあ、途中まで一緒に行こうよ」
「本当に結構なんで」
僕がピシャリと言うと
「おおっ、怖っ」と下手なアメリカンドラマ風に肩をすくめる不審者。
ひとつひとつの動作がいちいち腹立たしい。
「わかったよ」
ポツリと不審者が言った。
僕はやっと分かってくれたか、と胸を撫で下ろす。
では、もう、行くので
と、言おうとしたその時。
「わかったよ。名乗ればいいんだろ」
しょうがねぇな、とでも言いたげに不審者が言い放った。
なんだ、コイツは。日本語が通じないのか。
そもそも、名乗れなんて一言も言っていない。
「ボクの名前は衣遠……。西園寺……衣遠(イオン)」
なんだその妙な間は。
最初は目線を外して、最後の下の名前の時だけドヤ顔でこっちを向いてくるんじゃない。思わず撲殺してしまいたくなるじゃないか。
君は?と目線だけで聞いてくる。
無視をするともっと面倒なことになりそうなので仕方なく答えてやる。
「雨露田奏多(ウロタカナタ)です」
勿論、嘘だ。ちなみにこの偽名は田中太郎を反対から読んだだけだ。
それにしても……西園寺久遠かぁ。
なんで、無駄にカッコ良さげなんだよ。ゲームのキャラクターか!!もしくはお金持ちのお坊っちゃんか!!
「カナタ君ね。OK!inputした!」
わざわざネイティブに発音すんな。腹立たしい。
そんなやりとりを繰り返しながら、通学路を歩いていく。
途中、
激しく顔面に拳を叩き込みたくなる衝動に襲われたり、信号待ちのところで車道に不審者Sを蹴り飛ばしたくなったりしたが、コイツのせいで犯罪者になるのはもっと嫌なので頑張って耐えた。
僕えらい。
コインランドリーが見えてきた。
この角を曲がって真っ直ぐ行けばゴールに着く。
そしたらこの地獄からもオサラバだ。
そう思うと、歩くペースも自然に速くなってくる。
横で西園寺が
「なんでこんなにもボクはカッコ良いんだろうか」
「もうカッコ良すぎのカッコ衣遠だよ!!」
「あっ!今の上手くなかった!?ねぇねぇ」
とか、
ほざいてきても気にならない。
少し、額に青筋が走って、周りに凶器がないかどうか探してしまう程度だ。
そして、適当に話を合わせているうちに待ちに待った〇〇学園大学に着く。
よしよし。これでこの変態屑野郎ともお別れだ。
「すいません。さっきは急に学生かどうか聞かれたので驚いて嘘をついてしまったんですけど。実は〇〇学園大学の学生なんです。これから創作文芸の授業があるので、もう行きますね」
と、有無を言わさないよう、まくし立てるようにさっき咄嗟についた嘘のフォローをし、
それでは、
と教室へ向かった。
なにか、後ろから声が聞こえた気もするが、これ以上、絡まれるのも嫌なので無視することにしておく。
創作文芸の教室の席へ着き、疲れたァ~と、机に突っ伏していると、
「横、座ってもいいですか?」
席なんて座席表で決まっているのに、わざわざ聞いてくるなんて律儀な人だ。
どうぞどうぞ、
と突っ伏したまま答える。
先生が教室に入ってきて出席を取り始める。
「西尾華穂(サイオカホ)」
私の名前が呼ばれたので、突っ伏していた顔をあげ、ハイと答える。
「西園寺衣遠」
次の人が呼ばれる。
次の人?
まさか。
壊れたカラクリ人形のようにギギギと、右を向くと、
「よろしく。カホちゃん」
笑顔の不審者Sがいた。
泣きたくなった。
続きは気が向いたら公開^^